001.万物の根源を問うた最初の哲学者──タレスとは?

哲学者たち

哲学の歴史をさかのぼると、そこに立つのは古代ギリシアの人物たちです。
その中でも、「最初の哲学者」として語られるのがタレス(Thales)という人物です。
彼は紀元前7世紀頃にミレトス(現在のトルコ西部)に生まれ、自然現象を神話ではなく理性
観察によって理解しようとした、哲学の先駆者でした。


タレスの基本情報

  • 名前:タレス・オブ・ミレトス(Thales of Miletus)
  • 生年:紀元前624年頃
  • 没年:紀元前546年頃
  • 出身地:イオニア地方ミレトス(現トルコ西岸)
  • 分野:自然哲学、天文学、数学、幾何学

彼は「自然哲学者」と呼ばれる最初期の哲学者たちの一人であり、
「すべてのものの根源は何か?」という問いを、神話に頼らず、自然界そのものから導き出そうとしました。


万物の根源は「水」?

タレスが残した最も有名な思想の一つに、
**「万物の根源(アルケー)は水である」**というものがあります。

🔹「アルケー」とは?

古代ギリシアの哲学者たちは、世界を構成する最も基本的な「はじまりの物質=アルケー」は何か?を追求しました。
これは現代でいう「元素」や「エネルギー」の概念に近いものです。

タレスは、海・川・雨・動植物の水分など、あらゆるものに水が関係していることから、
すべてのものは水から生まれ、水へと戻ると考えました。
この考えは、今日の科学から見れば不完全なものかもしれませんが、
「神の意志ではなく、自然界の要素に根拠を求めた」という点で、画期的な発想でした。


名言:「すべてのものは水である」

タレスの残したとされる有名な言葉に、

「万物は水である(Everything is water)」

があります。
この言葉は一見単純に思えますが、当時の常識からすれば極めて大胆でした。
神々が世界を作ったとされていた時代において、目に見える自然の現象を冷静に観察し、理論的に語ったその姿勢こそが、哲学の誕生を象徴しています。


哲学者だけでなく、科学者・数学者としても

タレスは単なる思想家ではなく、科学的な観察力と数学的知識も持っていました。

🔹 天文学者として

タレスは、紀元前585年の日食を予測したと伝えられています。
これは、天文学の基礎的な法則に基づくものであり、当時としては非常に高い知的成果でした。
天体を神の気まぐれではなく、規則ある運動として見た姿勢は、後の天文学の礎となります。

🔹 幾何学への貢献

また、タレスはエジプトから学んだ幾何学をギリシアに紹介したとも言われています。
彼の名前に由来する**「タレスの定理」**は、三角形に関する基本的な法則で、
中学校の数学でも学ぶ内容として現代まで残っています。


哲学のはじまりとしての意味

タレスの功績が偉大なのは、彼が**「世界を理性で説明できる」と信じた最初の人の一人**だったからです。
神話的な世界観から一歩踏み出し、自然の観察から「なぜ?」を導こうとした彼の姿勢は、
のちの哲学者、たとえばアナクシマンドロスやアナクシメネス、ソクラテス、プラトン、アリストテレスへと受け継がれていきました。


現代におけるタレスの意義

もちろん、「万物の根源は水」という考えがそのまま現代科学に通じているわけではありません。
しかし、彼の試みは現代にも通じる知的態度の象徴です。

  • 「信じる」のではなく、「考える」
  • 「神話」に頼らず、「自然」に耳を傾ける
  • 「権威」ではなく、「観察」に基づく判断

これはまさに、現代に求められる**クリティカル・シンキング(批判的思考)**の原点とも言えるでしょう。


おわりに

タレスは、哲学の教科書ではほんの一行で紹介されることもありますが、
その一歩がなければ、今の私たちが持つ「考える自由」もなかったかもしれません。

「すべてのものは水である」──
この言葉の背景には、世界を自分の頭で見つめ直そうとした、一人の人間の大きな決意が込められています。

現代を生きる私たちもまた、世界を問い直し、考え、理解しようとする姿勢を忘れてはいけないのではないでしょうか。

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