020.実存を問い続けた哲学者 – キルケゴールとは?

哲学者たち

「自分とは何者か?」この問いに真正面から向き合い続けた哲学者がいました。それがデンマークの哲学者キルケゴールです。彼は「実存」という概念を哲学の中心に据え、のちの実存主義や心理学、神学にまで大きな影響を与えました。本記事では、彼の人生と思想を辿りながら、現代における意義についても考えてみましょう。


哲学者キルケゴールの基本情報

  • 本名:セーレン・オービエ・キルケゴール(Søren Aabye Kierkegaard)
  • 生没年:1813年〜1855年
  • 国籍:デンマーク
  • 活動分野:哲学、神学、文学
  • 代表作:『死に至る病』『あれか、これか』『恐れとおののき』

哲学者キルケゴールの生涯・背景

1813年、裕福な家に生まれたキルケゴールは、早くから鋭い感受性と宗教的な内省を持って育ちました。父ミカエルの厳格な敬虔主義と、家族に連続して起こった死別体験が、彼の思想に大きな影を落とします。

若い頃はコペンハーゲン大学で神学を学びましたが、在学中から哲学や文学に傾倒し、卒業後も「哲学的著述家」として活動を続けました。特に恋人レギーネ・オルセンとの破局は、彼の内面的な葛藤を深化させ、後の著作群の重要な原動力となりました。


哲学的思想の中心テーマ

キルケゴールの中心的関心は「個人としての実存」でした。彼はヘーゲル哲学のような抽象的な体系を批判し、個人が主体的に生きることの重要性を訴えました。

彼の思想には「実存の三段階(美的段階・倫理的段階・宗教的段階)」という概念があります。これは、人間の生き方が享楽主義から道徳的責任、そして神との個人的な関係へと深化していく道筋を示しています。

また『死に至る病』では「絶望」について論じ、人間が自己を見失うことこそが本当の病であるとしました。この「自己」というテーマも、現代のアイデンティティ論に通じる重要な視点です。


業績・後世への影響

キルケゴールの生前は、その思想があまり理解されることはありませんでした。しかし20世紀に入り、ジャン=ポール・サルトルやマルティン・ハイデッガー、カール・ヤスパースらによって「実存主義の父」として再評価されます。

また、心理学者カール・ロジャーズやヴィクトール・フランクルといった実存的心理学者にも強い影響を与え、宗教思想においてもカール・バルトやパウル・ティリッヒらに引用されました。


名言や逸話

キルケゴールの名言のひとつに、以下のものがあります:

「人生は後ろ向きにしか理解できないが、前を向いてしか生きられない。」

この言葉は、過去の意味を理解しながらも、未来に向かって歩み続ける人間の姿を象徴しています。

また、彼は多数のペンネーム(偽名)を使って著作を発表しました。これは読者に一方的な思想の押し付けを避け、自ら考えることを促すための手法でした。


現代とのつながりや意義

SNSや情報社会の中で、「自分とは何か」「どう生きるべきか」といった問いが一層難しくなっている現代。キルケゴールの「主体的真理」や「実存的選択」という思想は、そんな現代人に深い示唆を与えてくれます。

たとえば、他者の目を気にして「本当の自分」を見失いがちな時、彼の哲学は「まず自己に忠実であれ」と教えてくれます。自己啓発やセルフヘルプにも通じる力を秘めた哲学なのです。


おわりに

キルケゴールは、生涯を通して「生きるとは何か」を問い続けた実存の探求者でした。壮大な体系や普遍的な真理よりも、個人の内なる真実に価値を見出した彼の哲学は、時代を超えて多くの人々の心に響いています。

私たちもまた、自らの生をどう生きるかを問いながら、キルケゴールの言葉に耳を傾けてみる価値があるのではないでしょうか。

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